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宮崎地方裁判所 昭和23年(ワ)15号 判決 1948年6月08日

原告

延岡貨物運送自動車株式会社

被告

全九州自動車産業労働組合

宮崎県支部延岡貨物分会

主文

被告は原告に対し第一目録(註、トラツク等十九台)、第二目録(註、木炭三〇〇俵)、第三目録(部分品等)記載の物件を引渡せ。

被告は原告に対し第四目録(註、建物一棟)記載の物件に付昭和二十三年一月七日業務管理以前の状態に復した上之を原告に引渡せ。

被告は原告の事業を妨害するな。

訴訟費用は被告の負担とする。

請求の趣旨

原告訴訟代理人は主文同旨の判決並に担保を条件とする仮執行の宣言を求める。

事実

原告会社と原告会社の従業員を以て組織する延岡トラツク労働組合とは、昭和二十一年十二月十五日労働協約を締結し、爾来其の協約に基き必要に応じ経営協議会を開催し労資協力の実を挙げて来たのであるが、右労働組合は昭和二十二年八月二十八日原告会社に対し、(一)組合員一人一ケ月平均賃金三千円の支給(二)運転者の水揚歩合四分を一分とし残り三分は基本給に繰入るること(三)修理工の水揚歩合を全廃し其の額を基本給に繰入るることなる旨の要求を提出した、原告会社は会社の経理状況からして到底全面的に右要求を容るることが出来ないので之を拒絶し、且つ宮崎県地方労働委員会に提訴しその調停を受くることとなり数回会合の結果昭和二十二年九月十日(一)会社は平均実収賃金(税込)月額二千五百五十円を支給すること、但高千穂地区とは地域差月額二百円を適当とすること(二)会社は貨物収入月額百五十万円を超過するときはその超過額の三〇パーセントを臨時手当として支給することなる旨の協定案を労資双方受諾したのであつた。然るに其の後右労働組合は解散し新に全九州自動車産業労働組合宮崎支部延岡分会(以下九自労分会又は被告分会と略称する)なるものを組織し、九自労分会は昭和二十二年十二月十一日(一)右団体との労働協約の締結(二)退職金制度の確立(三)越年資金の支給(四)結婚資金の支給の四項目の要求を提出した、そこで原告会社は熟慮の結果昭和二十二年十二月十六日右(一)(二)(三)(四)項に付ては会社の従業員で組織する単独組合であれば考慮するが会社と何等の関係ない九自労とは協約を締結する訳には行かぬ。尚(三)項は会社現在の営業状態では支出能力ないので孰れも応じられぬと拒絶の回答を為したので被告分会が即日闘争宣言書を発表し、翌十七日定時出勤退社の通告を為し、次で昭和二十三年一月六日付通告書で翌一月七日午前八時から原告会社の業務管理を断行する旨通告して来たので原告会社は即日業務管理の不法性を指摘し、且つ原告会社の所有に係る車輌貯蔵物品(木炭、ガソリン、モビール、部分品等)其の他の使用を拒絶する旨回答したところ、被告は業務管理は法律によつて与えられた争議権の発動であるから会社の意思如何に拘らず実行する旨回答を寄せ、遂に同年四月八日より主文第一、二項の物件の原告会社の占有を排斥して業務管理を実行し今日に至つたのである。

原告会社に於ては、被告分会に会社の営業権介入を許諾したことがないから、会社の一切の権利義務は挙げて会社にあるので会社の承諾を受けずして会社の営業権、車輌燃料部分品等を占奪した上ほしいままに之を使用することは法律上不法であるから本訴請求に及んだと陳述した(立証省略)。

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として原告会社と被告分会との関係が原告主張の如くであつて、原告主張の如き経緯の下に被告分会が業務管理を開始し現在に及んでいることは争はないが、原告会社は被告分会との労働協約締結の交渉に当り全く誠意を缺き、被告分会との間には之が締結の意思なき旨表示したので被告分会としては労働争議の一態様として許さるべき本件業務管理を開始するの止むなかりしものであつて、業務管理開始後は従前の原告会社の経営方法と毫も背馳するところなく経営し、其の業績は従来よりも遥か優秀なものを挙げつつあるので本件業務管理は不法行為を以て論ずべきではなく正当な労働争議行為として認容せらるべきものであると陳述した(立証省略)。

理由

原告は貨物運送を業務とする自動車株式会社で被告分会の前身である原告会社の従業員を以て組織した延岡トラツク労働組合との間には昭和二十一年十二月十五日労働協約を締結し、爾来その協約に基き必要に応じ経営協議会を開催し、労資協力の実を挙げ来つたこと、昭和二十二年九月十日宮崎県地方労働委員会の調停に依り原告会社と右組合との間に(一)会社は平均実収賃金(税込)月額二千五百五十円を支給すること。但し高千穂区とは地域差月額二百円を適当とする(二)会社は貨物収入月額百五十万円を超過するときはその超過額の三十パーセントを臨時手当として支給することなる旨の労資協定が成立したこと、其の後右労働組合は解散し、新に被告分会即ち全九州自動車産業労働組合宮崎県支部延岡分会なるものを組織したこと、被告分会は昭和二十二年十二月十一日に至り原告会社に対し(一)右団体との労働協約の締結(二)退職金制度の確立(三)越年資金の支給(四)結婚資金の支給の四項目の要目を提出したところ原告会社は同年同月十六日右(一)(二)(四)項に付ては会社の従業員で組織する単独組合であれば考慮するが、会社と何等の関係ない九自労とは協約を締結する訳には行かぬ。尚(三)項の越年資金に関しては会社現在の営業状態では支出能力がないので、孰れも応じられぬと拒絶の回答を為したので、被告分会が即日闘争宣言書を発表し翌十七日定時出勤退社の通告を為したけれども、会社側が協調に乗り出す気色もないので、昭和二十三年一月六日付通告書を以つて翌一月七日午前八時から原告会社の業務管理を断行する旨通告したこと、及原告会社は即日業務管理は不法なりとし、且つ原告会社の所有に係る車輌貯蔵物品(木炭、ガソリン、モビール、部分品等)其の他の使用を拒絶する旨回答したが、被告分会としてはかかる場合の業務管理は法律上許された争議権の発動であるとの信念を披瀝し、遂に一月八日から業務管理を開始し今日に及んでいること当事者間に争がない。

仍て案ずるに被告分会が昭和二十二年十二月十一日原告会社に対して四項目の要求を提出した当時に於ては原告会社の従業員を以て組織した延岡トラツク労働組合は解散し、右従業員で被告分会が組織せられていたこと、原告会社が同月十六日被告分会を相手方としての協約には応じない旨強硬に拒絶したこと前段認定の如くなるに徴すれば原告会社は、結局は憲法の保障に基き労働組合法に準拠して組織した被告分会を相手方とせずと言うのであるから、被告分会としては労働者の地位の向上を達成せんがためには何等かの争議手段に依るの外なかつたことが認められる。そこで被告分会は前段認定の如く、右同日闘争宣言書を発表し、翌十七日定時出勤退社の通告を為し、之を実行したが解決の曙光が見えなかつたので遂に原告主張の如き経緯の下に昭和二十三年一月八日本件業務管理を開始したのである。ところで原告会社は貨物運送を業務とする自動車株式会社であることは前示の如くで成立に争のない甲第四号証の一乙第九号証の一同第十一号証記載の各陳述に徴すれば当時原告会社には延岡地区だけで約百五十人の従業員があり、只管復興資材食料薪炭等の緊急重要物資の運搬に従事して居たことが認められるので、斯る場合に採るべき団体争議手段としては従業員等の生活のこと、及原告会社側に企業分離の虞ありたることもさることながら、ストライキの方法に依るときは一般民衆の利害に及ぼす影響は極めて直接、極めて甚大と謂わねばならないから、此の場合被告分会が本件業務管理を開始したことは前陳の状況から推せば直に不当不法を以つて論ずべきではない。然しながら本件業務管理開始以後の被告分会の経営状況を看るに、成立に争のない甲第一及四号証の各一、二乙第九号証の二とに依れば当初は原告会社の経営方法を全く踏襲し、相当の成績を挙げ得たことが認められるが、須臾にして原告会社が延岡地区に於いてその収入の三分の一以上挙げ得る顧客たる旭化成工業株式会社に対する配車を拒絶したことは、其の当時旭化成工業株式会社が原告会社に支払うべき金四十万円を争議中の故なるを以つて被告分会に交付することを拒絶した事実はあつたとしても、其の後右全員は一部は原告会社の滞納税金の支払に充てられ、残部は被告分会に交付されているのであるからその儘に推移していることはなんと言つても原告会社の将来の事業運営の上に一抹の暗影をなげかけた結果となつているものと謂えようし、又本件業務管理以後の被告分会の経営は黒字を出した形はとつているけれども、これとても仔細に検討すれば被告分会が破損タイヤー等の補填を為さず、足揚げ車を多くしている結果に外ならないので、将来原告会社の業務経営を著しく困難にし、若しくは不能ならしむ危険あることが認められる。叙上の認定に牴触する前示乙第九号証の一、二記載の陳述は当裁判所の遽に信用し難いところである。而かも現在に於ては、原告会社は被告分会と適正妥当なる条件ならば協約を締結するに吝でないと云う襟度を示すに至つていることは原告弁論の全趣旨からうかがわれる。

果して然らば今日に於ては、被告分会の本件業務管理は遺憾ながら適正なる範疇を逸脱したものと謂わざるを得ない。従つて原告会社は其の営業権並に所有権の侵害を原因として之が排除を請求し得るものと判定する。次に原告会社の担保を条件とする仮執行宣言の申立に付案ずるに、原告会社の目的業務が前段認定の如くであつて、延岡地区だけでも約百五十人の従業員を使用し只管復興資材食糧薪炭等の緊急重要物資の運搬に従事し居るを以つて、之が運営を一日たりとも停止するときは一般民衆の福祉に及ぼす影響の極めて甚大なるに思いを致せば、原告会社に於て直に執つて代つて其の業務を推行し得る用意あることの主張立証共になき本件に於ては仮執行の宣言を為すことは相当ならずと認め之を為さない。

前段縷々説明したる理由に依り民事訴訟法第八十九条を適用し主文の如く判決する。

物件目録抄

第一目録 トラツク等十九台。 第二目録 木炭三〇〇俵。

第三目録 部分品及び潤滑油。 第四目録 建物一棟。

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